仮面の下

(男2:1千字)


【あらすじ】

自分の仮面を脱ぎ捨て、生きる気力を失った男が一人。

脱ぎ捨てられた仮面は男の代わりに人生を送り始める。

本物と偽物が出会うとき、どちらか片方は消えるという。


【登場人物】

男:


仮面:




ー本編ー

男:愛想のいい偽りの自分に疲れた

男:もう、疲れた。

男:お前がドッペルゲンガーだと言うのなら、俺を殺してくれ。

男:ドッペルゲンガーは、本物を殺して成り代わると言うじゃないか。

男:ならば、本物の俺を殺して、お前が代わりに俺として生きてくれ。

仮面:確かに俺はお前の仮面だった。

仮面:ドッペルゲンガーだと言うのなら、俺はそうなのかもしれない。

仮面:だが、なぜお前を殺さなければならない。

仮面:俺は俺の人生を生きている。

仮面:始まりは確かにお前の仮面だったかもしれない。

仮面:だが俺はこの生き方を疑ったりした事は無い。

仮面:お前が言う本当とはなんだ。偽物とはなんだ。

仮面:俺は俺で、お前はお前だ。

仮面:そこに本物も偽物もあるわけがない。

仮面:だから俺はお前を殺さない。

仮面:死にたいと言うのなら、お前がお前を殺せばいい。

男:(M)

男:それは、男にとって限りなく理想の答えだった。

男:なりたかった自分の、言いたかった言葉。

男:それを自分の仮面から言われ、男は絶望した。

男:お前はドッペルゲンガーなんかじゃない。

男:お前と俺のどこが同じだと言うんだ。

男:俺はこんなに無様で、お前はそんなに完璧なんだから。

男:お前は俺にできないことを何だってするんだろうな。

男:俺もお前みたいになれたらよかったのに。

仮面:…俺からすれば、俺にできることがおまえにできないとは思わない。

仮面:同じように、お前にできないことが俺にできると思わない。

仮面:だって、俺はお前だ。

仮面:お前が無様だと言うのなら、俺だって無様な人間さ。

仮面:俺が完璧だとお前が言うのなら、お前だって完璧な人間だ。

男:やめてくれ!!

男:お前がしゃべるたび俺は惨めだ!

男:お前なんていなければよかった!

男:俺なんていなければよかった!

男:消えたい!

男:俺は、消えて、なくなりたい!!!

仮面:…お前がそう言うのなら、俺にそれを止める権利は無い。

仮面:好きに生きてくれ。

仮面:俺も好きに生きる。

仮面:俺たちは、出会わなければよかったな

仮面:そう言うと男はその場を立ち去った。

仮面:そして、仮面は男になった。

ー了ー

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