エーカーは斯く語る

~それはありうべき物語~

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このシナリオはライターサークル「のべるぶ」における「ノベルニア」という企画から生まれた作品です。

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あらすじ:

ゴルドーと、リューネシア。

その国は「幸福の国」と呼ばれていた。

その国は「百戦百勝のゴルドー」が守っていた。

その国は一夜にして滅びた。

その男は「堕落騎士」と呼ばれるようになった。

それはいかにして起きたのか。

「孤軍の叫び」はどのようにして描かれたのか。

これはありうべき物語。

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登場人物:

ゴルドー:男性

エーカー:男女不問

姫:女性

王:男女不問

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ゴルドー:…その歌は、故郷の歌か?

エーカー:おやおや、将軍閣下じゃないか。

エーカー:これは恥ずかしいところを見られたね。

ゴルドー:恥ずかしいものか。

ゴルドー:芸術に疎(うと)い私にも分かる。

ゴルドー:エーカー殿は絵画だけでなく歌唱の腕前も一流なのだな。

エーカー:一流は一流を知る。極まった才能は異なる才をも網羅するものさ。

エーカー:つまり、私は天才を超える超天才!ということさ!

ゴルドー:…私は凡人だから、芸術家殿の言葉は難しい。

ゴルドー:だが、非凡な才を持つものは、やはり非凡な感性を持つのだな。

エーカー:そうだとも!天才とは!超天才とは!人とは異なる景色を見つけ!それを才無き者に分け与える者さ!

ゴルドー:なるほど。やはり私は凡才だな。

ゴルドー:エーカー殿のおっしゃることが全く理解できない。

エーカー:何を言う将軍閣下。

エーカー:閣下も才能という意味では、飛び抜けたものをお持ちじゃないか。

エーカー:でなければ「百戦百勝のゴルドー」などとは、呼ばれはしませんでしょう。

ゴルドー:それは…買被りが過ぎる。

ゴルドー:第一、「百戦百勝」など揶揄(やゆ)に過ぎない。

ゴルドー:エーカー殿はこの国に来たばかりだから、聞こえの良い方を耳にしたのかもしれない。

エーカー:そうかな?

ゴルドー:そうだとも。

ゴルドー:貴人とは言葉遊びがうまいものでな。

ゴルドー:彼らが口にする、本来の私の呼び名はこうだ。

ゴルドー:「村人百姓のゴルドー」とな。

エーカー:それは、まあ、なんとも!

ゴルドー:ああ、なんとも滑稽な話だろう。

エーカー:ああ!ああ!滑稽だとも!

エーカー:これが笑わずにいられるものか!

エーカー:ゴルドー将軍!貴方はなんとも間の抜けた方だなぁ!!

エーカー:あぁっはっはっはっはっは!!

ゴルドー:…エーカー殿。いくらなんでも笑いすぎではないか?

ゴルドー:確かに私は庶民の出と笑われることも多いが、そう面と向かって笑われては…

エーカー:おや?どうされますかな?

ゴルドー:その…困ってしまう…

エーカー:……

ゴルドー:エーカー殿?

エーカー:…そうか。

エーカー:ドル・ゴルドー将軍。あなたはそういう人なのか。

ゴルドー:なんと?

エーカー:いや、失礼いたしました。ゴルドー将軍。

エーカー:将軍の功績を見れば、村人百姓など貴族の嫉妬に他ならないでしょう。

エーカー:百戦百勝の実力を真に恐れるからこそ、貶めずにはいられない愚かな気休めに、心を慰めるしかないのですよ。

ゴルドー:ん、うむ…

エーカー:真の強者は力を振りかざすことなく、ただそこにあるがまま。

エーカー:ゴルドー将軍を見れば、それは知らずともおのずと理解しましょう。

エーカー:あたかも、龍がいたずらにブレスを吐くことがないように、強者は力をふるうべき時にしか振るわぬもの。

ゴルドー:エーカー殿!それ以上は勘弁してくれ!

ゴルドー:そのように私を持ち上げて、どうしようというのだ!

エーカー:いや!これは失礼に失礼を上塗りしてしまいましたな!

エーカー:一度書き損じた絵をどのようにごまかそうと、名画にはならないというのにもかかわらず!

エーカー:芸術家の名が聞いて呆れるというものですなぁ!

ゴルドー:いや、何もそこまでは…

エーカー:このお詫びは、いずれどこかで何かの形でお返しいたしましょう!

エーカー:それではまた!

ゴルドー:あっ…

ゴルドー:行ってしまわれたか…

ゴルドー:なんとも掴みどころのないお方だ。

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エーカー:抜きんでた武力を持ち、それを誇らず、みだりに振るわず、しかも優しい。

エーカー:まるでこの国を体現したような人間だな。

エーカー:さぞかし生き辛いことだろう。

エーカー:わずかにでも野心があったならば、楽に生きれたのだろうなぁ。

エーカー:まったく、幸福の国とはよく言ったものだ。

エーカー:豊かさと暖かさにあふれて、過ごしやすいと言ったらない。

エーカー:まあ、だからこそ、この国は滅ぶのだがねぇ…

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ゴルドー:姫様!

姫:ゴルドー!戻っていたのね!

ゴルドー:はい。ドル・ゴルドー、戦地より帰還いたしました。

姫:もう!いつも言っているでしょう。そんなふうに堅苦しい言い方はやめて。

ゴルドー:も、もうしわけ…

姫:ゴルドー?

ゴルドー:すまない…

姫:ま、いいわ。お互い立場ってものがあるもの。

姫:それより、戦が終わったってことはしばらくゆっくりできるんでしょう?

姫:私、連れて行って欲しいところがあるの。

ゴルドー:……

姫:…また戦争?

ゴルドー:…すまない。

姫:謝らないで。そうよね、貴方はゴルドー将軍だもの。しょうがないわ。

姫:でも、いつか平和は訪れるんでしょう?

姫:そうしたら、貴方も将軍職はお役御免。

姫:戦うことしか能がない貴方は、私の護衛騎士にでもなって、私のわがままに振り回してあげますから!

ゴルドー:それは…今よりキツそうだ。

姫:そりゃそうよ!

姫:貴方がいくら無敵のゴルドーだとしても、私はこの国の姫。

姫:あのゴルドーに膝をつかせるのなんて容易いことだわ!

ゴルドー:貴方に勝てたことなど、一度だって無かった。

姫:まあね!

ゴルドー:争いごととなると、どんな手を使ってでも負けを認めようとしない。

姫:んん?

ゴルドー:ゴネてゴネて、泣きついて、王や大臣まで引っ張り出して駄々を通す。

ゴルドー:結果はいつも姫様の粘り勝ち。

姫:ちょっと、ゴルドー?

ゴルドー:あの時だってそうだ。

ゴルドー:庭で呼び鈴パイを半分こにして食べようというのに、自分の分だけじゃ物足りず、私のパイも欲しがる始末。

姫:……

ゴルドー:挙げ句の果てには、呼び鈴パイはベルクイムシが食べてしまった。

ゴルドー:自分は食べてないのだからゴルドーの分をよこせ、と言い張る始末。

ゴルドー:貴方の口の周りについた食べかすを見ながら、貴方の言い分を聞いてたメイドの表情と言ったら…

姫:お喋りがすぎるようね?ドル?

ゴルドー:あっ…!

姫:戦場で勝ち星を拾いすぎて調子に乗ってしまったようね?ドル。

姫:あなたが一体誰に仕えているのか、今一度教えなおしてあげなければならないようね?

ゴルドー:これだから、姫様には敵わないというのだ…

姫:あら、さらに負け星を増やしたいようね?ドル?

ゴルドー:ええ、私に膝をつかせるのはあなただけですから。

ーーー

姫:国に、王に、何より私に、忠誠を誓った騎士の中の騎士。

姫:守るべきものを守ると決めたあなたに、誰もかなわない。

姫:それは強いからじゃない。

姫:決して傷つかないわけじゃない。

姫:誰よりも傷つく覚悟を持っているから、誰よりもやさしい心を持っているから。

姫:だからあなたは勝利以外を選べない。

姫:あなたの本当の願いはかなわない。

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王:おお!!ゴルドー!!

王:お主が来るのを、儂は首を長くして待っていたぞ!!

ゴルドー:ドル・ゴルドー、ここに遅参(ちさん)致しました。

ゴルドー:陛下をお待たせしたこと、深くお詫び申し上げ…

王:固ぁい!!

王:畏(かしこ)まりすぎだ!!

王:お主はただでさえ、デカくてゴツくてコワモテだからな!

王:せめて口調ぐらいは柔らかくせんか!

ゴルドー:…それは、あまりにも無礼というもの。

王:儂の言うことに背(そむ)く以上の無礼が、あるわけなかろう!!

王:ほれ!試しに「王様!ただいま!」と言ってみろ!

ゴルドー:何卒(なにとぞ)、ご勘弁を…

王:ならん!言うのだ!

ゴルドー:……

王:これは命令だぞ。

ゴルドー:…王様、…ただいま…………戻りましてございます…

王:ふむ。

王:まあ、お主にしては頑張った方だな。

王:よかろう。戯れもこのくらいにして、報告を聞かせよ。

ゴルドー:はっ。

ゴルドー:戦(いくさ)に勝ちました。

王:おお!でかした!

王:ゴルドー。褒めて遣わすぞ。

ゴルドー:はっ。

ゴルドー:ありがたき幸せ。

王:よきにはからえ。

王:…いや、いかんいかん。お主の朗報を聞くと賞賛(しょうさん)の声を上げずにはおられん。

王:話が途中だったな。続きを述べよ!

ゴルドー:はっ。

ゴルドー:戦に勝ちました。

王:ははっ!それはもう聞いたぞ?

ゴルドー:戦に勝ちました。

王:だから聞いたと言っておるだろう。

ゴルドー:戦に勝ちました。

ゴルドー:戦に勝ちました。

ゴルドー:戦を鎮圧しました。

ゴルドー:皆殺しにしました。

ゴルドー:西の国の軍事侵攻を食い止めるために、皆殺しにしました。

ゴルドー:小領主に反乱の兆(きざ)しがあったため、皆殺しにしました。

ゴルドー:飢饉(ききん)のあった村で暴動があったため、皆殺しにしました。

ゴルドー:戦があればそこへ行き、すべての戦に勝ちました。

王:……

ゴルドー:陛下。私はこの国に仕えるものとして、戦に勝ち、勝利を陛下に捧げます。

ゴルドー:私のような戦しか知らぬ者には、それしか忠誠の示し方を知りませぬ。

王:で、あるか…

ゴルドー:ですから私は、戦に勝ちます。

ゴルドー:どのような戦であろうと、誰であろうと、必ず勝利しましょう。

ゴルドー:皆殺しにしましょう。

王:そうか…

王:ゴルドー、大儀であった。

王:下がってよい。

ゴルドー:はっ。

ゴルドー:心安らかでお過ごしくださいませ。

王:…うむ。

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王:ゴルドー、ドル・ゴルドー。

王:我が国が誇る武勇。

王:奴が居なければこの国はここまで発展しなかっただろう。

王:ただの、いち辺境国に過ぎなかったリューネシアが、「幸福の国」とまで言われるようになったのは、我が国が誇る肥沃な大地と、それを狙う周辺諸国の侵略を食い止め、返す刀で征服を繰り返してきたからだ。

王:しかし、永遠の幸福などは無い。

王:生(お)い茂るノベルベリーもいずれ枯れる。

王:ゴルドー。リューネシアの守護騎士。

王:お前の役目は終わりなのだよ。

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姫:ゴルドーはまた戦に?

王:おお!愛しのわが姫!

王:今日もお前は世界で一番美しい!

姫:御冗談は結構です。

姫:いつまで戦は続くのです。

姫:この国は、ゴルドーは十分戦っています。

姫:もういい加減休んでもいいのでは?

王:何を言っている!

王:我が国はいずれの戦いも勝利してきた!

王:勝利のたびに国は豊かになり、「幸福の国」とまで呼ばれるようになったのだぞ?

王:ここでやめてどうするというのだ?

姫:もう限界だと申し上げているのです。

姫:戦に次ぐ戦、他国からの侵略だけでなく、内乱や暴動も増えております。

姫:確かに国力は増えました。しかしそれに伴う歪みも大きいのです。

姫:これ以上の争いは何も産みません。むしろリューネシアにとって害となりましょう。

王:それで?

姫:え?

王:それで、どうするというのだ?

王:争いをやめて、どうする。

王:侵略も、内乱も、暴動も、すべてゴルドーが鎮圧してきた。

王:それでも争いはなくならない。

王:むしろ以前よりも増えているくらいだ。

王:その状況で、争いをやめてどうなるというのだ?

姫:ですから、争わず、交渉によって解決を…

王:交渉ならしているではないか。

姫:何を…?

王:ゴルドーだ。

王:ゴルドーが戦に勝ち、我が国の威光を示す。

王:それこそが何よりの停戦交渉。

王:リューネシアに矛を向けるなという、何よりも雄弁なメッセージではないか。

姫:それでは、禍根を残すことになります!

王:姫よ、愚かなふりをするのはやめろ。

王:そなたも分かっているのだろう?

姫:……

王:我が国は弱い。リューネシアという国は小さい。

王:今でこそ「幸福の国」などと呼ばれているが、その実態は単なる穀倉地に過ぎないのだ。

姫:ですが、それはかつての話!

姫:今ならば充分に国の地盤を固めることもできます!

姫:そのためには戦をやめ、民を休ませなければ!

王:それを誰が許すと思う?

王:いいや、誰も許しはしないさ。

王:リューネシアは勝ち過ぎた。周辺国で、リューネシアの衰退を望まぬものなどいまいよ。

王:いや、国内ですらそれを望む者は多いことだろう。

姫:そんな、こと…

王:今リューネシアが勝ち続けている最大の理由は、戦い続けているからだ。

王:それがわからぬ姫ではなかろう?

王:今我が国がどことも戦争をせず、立ち止まったらどうなる?

姫:諸外国には我が国の武勇が知れ渡っています。

姫:おいそれと手出しはしないでしょう。

姫:その間に、街を起こし流通を整備すれば…

王:そうだ、そしてますます手に負えなくなる。

王:そうなる前に何としてもつぶしておかねばならない。

王:それこそリューネシア以外のすべてが手を組んででも、だ。

姫:そんなこと!

王:ありえない、か?

王:それはお前が無知ゆえの言葉か?

王:それとも、現実を認めたくない子供の駄々か?

姫:陛下…お考え直し下さい…

姫:リューネシアは、限界です…

姫:これ以上の戦に、民は耐えられません…

王:そうとも!

王:限界などとうに越えておるのだ!

王:なら、なぜまだ戦える?

王:なぜそうなる前に誰も止めなかった?

王:答えは一つだ。

姫:おやめください…

王:ドル・ゴルドー。あの者がすべての元凶だ。

姫:なに、を…

エーカー:陛下、本日はことのほかご機嫌が麗しゅうございますようで。

エーカー:そのように口の回りがよすぎては、お戯(たわむ)れも過ぎるというもの。

姫:エーカー?

姫:なぜ客人である芸術家が、王の間に…

王:ネズミか。

王:なんだ、もう頃合いであったか。

エーカー:頃合いと言えば頃合い。

エーカー:陛下が思召(おぼしめ)せば、それがいつでも頃合いでございましょう。

姫:いったい、何を…

王:首尾は上々といったところか。

王:ならば焦らすこともないだろう。

王:今夜だ。今夜全てを決しようではないか。

エーカー:やはり本日の陛下は血気がお盛んで。

姫:口を慎みなさい!下郎!

姫:一体陛下に何を吹き込んだのです!

エーカー:おや?陛下。姫にはまだ何も?

王:それを話す、というところでお前が水を差したのだよ。

エーカー:それは失礼をいたしました。

エーカー:なればこそ、汚名を返上させていただきたく。

王:よきにはからえ。

エーカー:しからば。

エーカー:名乗り上げれば貴(たっとい)いお方の失礼に当たる。ここは名乗りを下げて声を上げさせていただきましょう。

エーカー:我が名はエーカー。クロッカス・エーカー。

エーカー:流浪の芸術家にして、リューネシア辺境国にて食客(しょっかく)の招きをたまわっておりまする。

エーカー:しかして芸術家は、世を忍ぶ仮の姿。

エーカー:時にネズミ、時に虫、時にコウモリと呼ばれもするワタクシですが、何を隠そう由緒正しきスパイ家業を生業とさせていただいております。

姫:スパイですって!!

王:長いぞ、ネズミ。

王:興がそがれる。

エーカー:では、心持ち早回しにて。

エーカー:スパイと申しましても、どこからどこへ宛(あ)てたスパイなのかが肝要でございましょう。

エーカー:また、その目的が何かも大変重要でございます。

エーカー:それはいずれも秘中の秘。決して漏れてはならぬ闇人(やみびと)の宝。

エーカー:ですが、今日は特別サービス。包み隠さず申しましょう。

エーカー:なんと、ワタクシは周辺諸国からリューネシアに放たれたスパイであり、同時にリューネシアに情報を明け渡す二重スパイでもございます!

姫:陛下!!この曲者を直ちに処分せねば!

王:途中だ、最後まで聞くがよかろう。

姫:しかし!

王:これは勅命であるぞ。

王:続けよ、ネズミ。

エーカー:どうやら本日のゲストは心ここにあらずといったご様子。

エーカー:それも仕方ありますまい。ワタクシももったいぶって本日の主役の紹介を焦らしに焦らしたわけですから。

姫:主役ですって?

エーカー:そう!主役でございます!

エーカー:と言っても、この国において主役を張れる役者と言って思い浮かぶのは、一人しかおりますまい。

エーカー:だからこそ、ワタクシのような脇役の紹介で、茶の間を沸かせ、床の間を温めるくらいしておかねば、他が役不足で舞台を降りかねません。

姫:ゴルドーを、どうするつもりなのですか。

姫:まさか、あなたごときがゴルドーを暗殺するとでも?

エーカー:とんでもない!鬼神のごとき将軍を手にかけるにはネズミの手では小さすぎます。

エーカー:せめてドラゴンの爪先くらいは用意せねば、荷が勝ちすぎるというものです。

姫:ならば、何を…

エーカー:姫。これは姫の願いとも無関係ではないのです。

姫:私の、願い…?

王:そうだ。

王:ゴルドーを戦の宿命から解き放とうではないか。

王:のう?

ーーー

ゴルドー:陛下!陛下は何処(いずこ)におられますか!

王:ゴルドー。儂ならここだ。

ゴルドー:陛下!ご無事で何より!

ゴルドー:陛下の寝所をお騒がせして大変申し訳ありません。

ゴルドー:ですが火急の知らせにて、お許しいただきたく。

王:よい、申せ。

ゴルドー:はっ!

ゴルドー:敵襲にございます。

ゴルドー:城門から500ヒュースの位置に武装した軍を発見いたしました。

ゴルドー:いずれの勢力かはまだ確認がとれておりませんが、いずれにせよこの城に向かっていることは確実。

ゴルドー:陛下と姫に置かれましては、万一に備えて城の外にお逃げいただきますよう。

王:その必要はない。

ゴルドー:ですが!

王:それがどの勢力かも判明しておる。

ゴルドー:陛下?

王:ゴルドーよ、命令だ。

王:儂の首を土産にこの城を明け渡すのだ。

ゴルドー:陛下!?何をおっしゃるのです!!

王:なんだ!

王:お主もそのように慌てふためくのだな!

王:まさか最後にそのような姿を見せてくれるとは、冥途の土産としては充分だ!

ゴルドー:陛下!お戯れはよしてください!

ゴルドー:冗談を言っている場合ではないのです!

王:お主こそ落ち着け。

王:ここで敵勢に反撃したとして、勝てるものか。

王:いや、お主がいるなら万が一はあるだろう。

王:だが、そのあとはどうだ。

王:一度や二度の勝ちは拾えるが、三度四度、永遠の勝利というものは存在しない。

ゴルドー:私は百戦百勝のゴルドーです!

王:では、お主が生きている間は負けぬだろう。

王:だが、お主の寿命が尽きたら?

王:次の百戦百勝の誰それが現れることに期待するのか?

ゴルドー:それでも!私がいる限り、リューネシアは平和でいられる!

王:それで得られる平和の代償は、その後無限に続く怨嗟の坩堝(るつぼ)だ。

王:リューネシアが占有していた幸福をむしり取る、各国による逆襲劇だよ。

王:それを食い止めるためには、今ある禍根を何かで祓(はら)わねばならんだろう。

ゴルドー:陛下、まさか…

王:リューネシアに負け続けた者たちの留飲を下げるためにはな、リューネシアの敗北と儂の首、その二つが何より不可欠だ。

ゴルドー:お考え直し下さい!

ゴルドー:そのような先の事、このゴルドーが排して見せます!

王:それは頼もしい!

王:だがな、これはもう覆らぬよ。

王:何しろ、ここで負けを認めねば、今度は姫の身に危険が及ぶのだからな。

ゴルドー:何を…!?

王:姫は敵の手に渡ったぞ。ゴルドー。

ゴルドー:な!?貴様ァっ!!

王:はははははははは!!

王:うろたえる姿だけでなく、怒り狂う顔まで見せてくれるとは!

王:普段の堅苦しさと打って変わって、大奮発ではないか!

ゴルドー:姫はどこだっ!!

王:安心しろ。儂が死ねば姫は無事に済む。

王:さあ!リューネシアの守護鬼神!ゴルドー将軍!

王:ここに大罪人がおるぞ!国内を脅かし反乱を誘発させ、諸外国と手引きして侵略を企てた張本人だ!

王:リューネシアを守るために、お主はどうする!

ゴルドー:(叫び)

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エーカー:これはこれは、ゴルドー将軍。

エーカー:いや、まさかこれほどまでの武勇とは。

エーカー:計算違いにもほどがある。

ゴルドー:エー、カー…

エーカー:ざっくり見積もっても万は下らぬ軍勢だったろうに、

エーカー:城の兵がいたとはいえ、ほぼ一人で全滅しうるその武力。

エーカー:まさに孤軍奮闘とも言うべきだろうね。

エーカー:文字通りの皆殺しを見るのは初めてだ。

エーカー:息があるのは私たちだけのようだね。

姫:ごるどー…

ゴルドー:ひ、め…!

エーカー:安心したまえ、ゴルドー将軍。

エーカー:姫様は五体満足。健康そのものさ。

エーカー:むしろここにいる誰よりもぴんぴんしている。

エーカー:ただ、少しだけ意識をもうろうとさせる薬を嗅がせているがね。

ゴルドー:き、さま…!ころ、して…

エーカー:さすがの将軍も満身創痍と見える。

エーカー:まあ、そうと分かっているから安心して目の前に現れたというわけだけど。

ゴルドー:なに、が…もく、てき…

エーカー:なに、今は亡き陛下があえてしなかった説明を一つと、

エーカー:陛下に頼まれていた仕事が一つ。

エーカー:それを済ませに来ただけさ。まあ、おつかいだと思ってくれたまえよ。

ゴルドー:たわ、ごと、を…

エーカー:いいや、これは真実だ。

エーカー:そして、これから嘘にする。

エーカー:君のゴルドーとしての在り方を奪わせてもらう。

ゴルドー:な、に…がぁぁああああああ!!!!

エーカー:これこそが王の目的。

エーカー:君を争いの宿命から解放することだ。

エーカー:リューネシアの将軍として拾われてしまったことで、君の人としての運命はリューネシアに課せられてしまった。

エーカー:王はその枷を解き放ちたいと、そう願ったのだよ。

ゴルドー:……

エーカー:そう、今はゆっくりと眠るがいい。

エーカー:次に目覚めたときは、君は何者でもなくなるのだから。

姫:ごるどー…ごるどー…

エーカー:そしてもう一つ。

エーカー:姫様。あなたのリューネシアにまつわる一切の記憶をいただきます。

姫:いや…いやぁ…

エーカー:長命主たるエルフの大国リューネシア。

エーカー:そのような歴史を後世に残しては、王が望んだエルフの未来が潰えてしまいます。

エーカー:かつて「幸福の国」と呼ばれたリューネシアとエルフは無関係。

エーカー:よって、あなたを担ぎ上げて国を復興することも叶わない。

エーカー:これが陛下が描いた筋書きの全てです。

姫:やめて…ごるどー…

エーカー:義理は果たしました。あとは仕上げに…

姫:ごるどー…あいし…っあぁ!

エーカー:おやすみなさい。良い夢を。

エーカー:…ふぅ。

エーカー:さて、この元将軍様はともかく、元姫様は放っておいたらさすがにまずいか。

エーカー:仕方あるまい。しばらく面倒を見るとするか。

エーカー:ふむ、芸術家と旅する弟子、とでもすれば…いけるか?

エーカー:あとは、名前をどうするか…

エーカー:ふむ、どうせなら同じ家名にするのも一興。

エーカー:…エルトン。

エーカー:ふむ、悪くない響きだ。

エーカー:エルトン・エーカー。見習いの芸術家。

エーカー:それが、お前のこれからの真実だ。

ーーー

姫:師匠、出来ました!

エーカー:ほほう、なるほど。

エーカー:エルトン。これは一体何から着想を得たのかね?

姫:それは、自分でもわかりません…

姫:ですが、なぜかいつもこの情景が心に浮かぶのです。

姫:そして、私はこれを思うとどうしようもなく愛しいような切ないような気持になるのです。

エーカー:エルトン。この絵にタイトルはもうつけたのかい?

姫:いえ?まだですが。

エーカー:ならば、私に名付けさせてくれ。

エーカー:そう、これは「孤軍」。

エーカー:「孤軍の叫び」と呼ぶにふさわしい。

エーカー:将軍、いつかの詫びはこれでお返ししましたよ。

―了―

浪漫峰~romancesyndrome~

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