朝、ときどき猫

(男1人:女1人:4千字)


【あらすじ】

高校に通う宮森美也子は早朝の路地で黒猫に会い、路地に閉じ込められてしまう。

同級生の金子直も美也子に巻き込まれるように路地から出れなくなってしまう。

悩める2人は、無事に路地から抜け出せるのか。


【登場人物】

宮森:宮森 美也子(みやもり みやこ)

宮森:女子高生、猫っぽい。

宮森:気まぐれに朝早く学校に登校しようとしていたら猫を見つけて、道に迷ってしまった。


金子:金子 直(かねこ なお)

金子:男子高校生、犬っぽい。

金子:宮森のクラスメート、運動部。

金子:宮森を見つけて巻き込まれてしまった。


―本編―

♯一話 朝と猫

宮森:(M)

宮森:今日は珍しく早い時間に目が覚めた。

宮森:だから家で時間をつぶすでもなく、さっさと学校に向かった。

宮森:他に理由なんてなかった。

宮森:「ねこー、ほらねこー。おいでー」

宮森:(M)

宮森:まだ日も上りきってない街はどこかよそよそしくて、冷たい空気にも刺々(とげとげ)しさを感じた。

宮森:誰ともすれ違わない道で、隠れるように歩く黒猫を見つけたのは、どこか私と似た匂いを感じたからかもしれない。

宮森:「なんだよー、ツンケンすんなよー。

宮森:ほら、おしゃべりしよーぜー。

宮森:あ、逃げんなよぅ、ナーオー。ナーオー」

金子:「宮森?」

宮森:「か、金子!?」

金子:「…えっと、宮森、だよな?

金子:そんなとこで何やってんの?」

宮森:「…人違いです」

金子:「いやいや…んなわけ…

金子:なんか、うずくまってたから声かけたんだけど、足、挫(くじ)いた?

宮森:「イヤ、もうゼンゼンダイジョブなんで、じゃあこれデっ!?」

宮森:(立ち上がり、急いでその場から逃げ出そうとする。

宮森:だが、見えない壁にぶつかってしまい、尻餅をつく)

宮森:「えっ?あれ?」

金子:「宮森!?」

宮森:「え?え?なに?これ」

金子:「おい、ほんとに大丈夫かよ…」

宮森:「なんか、ある

宮森:…壁?」

金子:「壁?」

宮森:「うん、透明な、壁。

宮森:え!?なんで!?ここ通れなくなってる!」

金子:「通れないって…

金子:(美也子の前の空間を触ってみる)

金子:ほんとだ…何だこれ」

宮森:「やだ…このままじゃ学校にいけない…」

金子:「大丈夫だって。ここが通れなくても、回り道すればいいだけだろ。

金子:ほら、向こうからとか」

金子:(そういって路地の反対を指す)

宮森:「だ、だよね!こっち戻ればよかったんだ!

宮森:じゃあっ、私急ぐからっ、これデっ!?」

宮森:(金子を追い越し、勢い良く反対の路地を進んで、見えない壁に頭から激突する)

金子:「みやもり!?」

宮森:「~~~~~~~~!!(声にならない声)」

金子:「…だ、だいじょうぶか?」

宮森:「……」

金子:「みやもりー?」

宮森:「出れなくて痛いっ!!」

金子:「たしかになっ!」

#二話 迷い猫たち

金子:(M)

金子:部活の朝練、そう言い訳をして毎日家を出る。

金子:朝練は嘘じゃない。

金子:ただ、少し遠回りをして学校に向かうだけ。

宮森:「なんなの!?なんで通れないの!?

宮森:は?透明な壁?あるわけないじゃん!なんであるんだよ!これじゃ学校いけないじゃん!

宮森:私たち、閉じ込められたってこと!?」

金子:「まあ、そういうことになるのかな、多分」

宮森:「いやいやいや、意味わからんて!どういうこと!?」

金子:「どういうことって…俺だってわけわからんけど…

金子:なんか向こうにいけなくなってるし、そういうこと、としか…」

宮森:「だって、おかしいじゃん!こんなことありえないでしょ!

宮森:なんでこんな意味不明な状況が起きるっていうのよ!」

金子:「そんなの、俺に言われても…俺だって巻き込まれたみたいなもんだし。

金子:ぶっちゃけどうしたらいいかわからないのは俺もだって…」

宮森:「巻き込まれたって何よ!?私が巻き込んだって言いたいの!?」

金子:「そうは言ってないだろ?落ち着けって」

宮森:「落ち着けるわけないじゃん!

宮森:こんなことになって冷静でいる方がおかしいよ!」

金子:「つったって、慌ててもどうしようもないだろ?」

宮森:「……」

金子:「な?ゆっくり考えたら、なんかいい考えが思いつくかもだし?」

宮森:「…なんで」

金子:「ん?」

宮森:「なんでそんな平気そうなの?大体なんで金子がこんなとこにいるの?」

金子:「…あー、俺運動部だから。朝練で早いんだよ」

宮森:「だったらなおさらじゃん。部活に遅れそうなのにそんなに落ち着いていられる?

宮森:ねえ、なんか隠してない?」

金子:「ちょっと待てって!それはさすがに疑いすぎだろ!?

金子:たまたま通学路がかぶって、クラスメートを見かけただけで、そこまで言うか?」

宮森:「だっておかしいじゃん!そうじゃなきゃなんでこんな変なことになってんのよ!?」

金子:「なあ、こんなこと言いたくないけど、宮森ちょっとおかしいぞ?」

宮森:「私が全部悪いの!?」

金子:「違うって!話聞けよ!

金子:スマホで誰かに連絡すれば済む話だろ?警察や消防でもいいわけじゃん。

金子:何なら学校なんて遅れたってかまわないし、ずる休みしたっていいよ。

金子:それなのにそんなに慌てるのって、何かあるのは宮森の方なんじゃないか?」

宮森:「……」

金子:「なあ、なんかあったか?」

宮森:「…べつに」

金子:「なんもない奴がする顔じゃないってば」

宮森:「…金子には関係ない」

金子:「そりゃそうだけど…」

宮森:「そうだよ…」

金子:「…学校で、なんかあった?」

宮森:「…ない」

金子:「最近宮森、一人の時とか多いし、しんどそうにしてるのとか…」

宮森:「金子には関係ないって言った!もう、私の事なんかほっとけばいいじゃん!」

金子:「…そういうわけにもいかないって」

宮森:「もう、なんなんだよぅ…」

金子:「…余計なこと言うけど、無理して学校行かなきゃって、思わなくてもいいんじゃない?」

宮森:「そういうのマジでいらないから…」

金子:「ゴメンて…」

#三話 箱の中の猫

宮森:(M)

宮森:何もかもうまくいかない。

宮森:学校も友達も、親とも。

宮森:それまで、考えなくても普通にしてれば何の問題もなかったのに、何が切欠だったのか、全部が間違いだらけになってしまった。

宮森:悪いのは全部私で、何が悪いのかわからなくて、また間違える。

宮森:どこにも居場所なんてない。どこにもいちゃいけない。誰にもわかってもらえない。

宮森:傷つきたくなくて、傷つけたくなくて、1人はいやで、1人じゃないとだめで。

宮森:だから、見えない壁に閉じ込められてしまったのは、私の今を現した、何の不思議でもない当然の出来事なのかもしれない。

宮森:「金子はいいよね…」

金子:「どうしたんだよ、急に」

宮森:「部活も楽しそうだし、クラスでも友達と仲良さそうだし」

金子:「…別に、普通にしてるだけだけど」

宮森:「なにそれ、自慢?」

金子:「自慢って…」

宮森:「自慢だよ、それ。

宮森:普通のことが当然のようにできて当たり前とか、できない人からしたら嫌味だよ…」

金子:「……」

宮森:「そういう人からしたらさ、私なんかの気持ちがわかるわけないよね」

金子:「やめろよ」

宮森:「分かってるよ、こんなこと言ってもめんどくさいよね」

金子:「やめろって」

宮森:「だからゴメンって。私の言うことなんか聞き流せば(いいじゃん)」

金子:(宮森の言葉を遮るように)

金子:「宮森!」

宮森:「……」

金子:「…やめてくれよ。お願いだから…」

宮森:「…なに、よ。ゴメンって言ったじゃん…」

金子:「そうじゃない、そうじゃなくて…

金子:そうやって、自分が悪者みたいに言うなよ…」

宮森:「…金子に私の何がわかるっていうの」

金子:「わかんないけど、何も知らないけどさ!

金子:宮森が、学校で辛そうにしてるのに気付いても、何もできなかったけどさ!

金子:それでも、宮森が全部悪いなんてこと、あるかよ!」

宮森:「……」

金子:「…俺は部外者だし、宮森が何に悩んでるのかもわからないけど、でも、宮森が頑張ろうとしてるのは、分かるよ」

宮森:「…なに、が」

金子:「逃げないで、立ち向かおうとしてるんだろ。

金子:諦めてないんだろ。だから、不安なんだろ。苦しいんだろ」

宮森:「……」

金子:「ごめん」

宮森:「…あやまるなよ」

金子:「でも、ごめんな」

宮森:「…あ、あやまるなってばぁ」

宮森:(ボロボロと涙がこぼれる)

金子:「宮森が頑張ってるのに、なんもできなくて、ごめんな」

宮森:「…う、あああああああ!」(泣)

#四話 日溜まりから

金子:(M)

金子:いつからだったのかはもう覚えてない。気づいたら目で追っていたから。

金子:いつの間にか宮森のことを探してる自分がいて、宮森のことを考えることが増えた。

金子:それでどうとか、そういうのはなかったけど。

金子:だから、宮森が友達とうまくいってないらしい、という話を聞いて、心配する自分に違和感はなかった。

金子:一人でいる宮森を見かけて、何度声をかけようと思ったか。

金子:でも、宮森は頑張ってた。どうにかしようとあがいてた。

金子:だから、声をかけることはなかった。だけど、声を掛けられるくらいには近づきたかった。

宮森:「今何時…」

金子:「そろそろ昼休み」

宮森:「最悪…」

金子:「いつまでも泣いてるから」

宮森:「誰が泣かせたんだっつーの」

金子:「泣き止まなかったのは誰だっつーの」

宮森:「…今度は謝らないんだ」

金子:「謝ってほしいんだ?」

宮森:「ううん、いい」

金子:「だよな」

宮森:「うん、…大丈夫」

金子:「そっか。ならよかった」

宮森:「…うん」

(間)

(猫の鳴き声がする)

宮森:「あ…、猫」

金子:「ん?」

宮森:「猫、まだいたんだ…」

金子:「まだって…、猫、いたの?」

宮森:「うん、猫がいて、金子に声かけられた」

金子:「ああ、あの時…

金子:…なあ、あの時、さ」

宮森:「なに?」

金子:「…いや、あの時、……」

宮森:「だから、なに?」

金子:「…呼んだ?」

宮森:「え?」

金子:「だから、俺のこと」

宮森:「金子のことを?なに?」

金子:「だから!あー!もういい!恥ずかしくなってきた!」

宮森:「え、ちょっと。なに?どうしたの?」

金子:「いい、いい!俺の勘違い!」

宮森:「そんなこと言われても気になるって!言いなよ!笑わないから!」

金子:「あー、もー!ぜったい笑うなよ・・・」

宮森:「うん、絶対」

金子:「…あの時、宮森に名前、呼ばれた気がして、それで宮森に気付いたんだ…」

宮森:「…え?いやいやいや!呼んでないよ!?」

金子:「呼ばれた気がしたんだよ!なおって!2回!」

宮森:「え…」

金子:「やっぱ気のせいだった!はっずっ!自意識過剰すぎる!!」

宮森:「…金子って、下の名前なおっていうんだっけ?」

金子:「そうだよ!女の子みたいってからかわれるからあんま言ってないんだよ!」

宮森:「あー…」

金子:「聞かなきゃよかった…」

宮森:「私は、聞いてよかった…」

金子:「やめろよぉ…」

宮森:「あ、ほら!あの猫!」

金子:「どれだよ…」

宮森:「こっちだって!この…えっ?」

金子:「どの…あれ?」

宮森:「壁…なくなってる…」

金子:「…だな」

宮森:「抜け出せた、の?」

金子:「って…ことになる、みたいだな」

宮森:「……」

金子:「…どうする?一応、まだ学校はやってるけど」

宮森:「…さぼっても、いっか」

金子:「宮森?」

宮森:「金子!学校さぼろっ!」

金子:「え?あ!おいっ!宮森!?」

(路地から走っていく二人)

(猫の鳴き声)

―了―

浪漫峰~romancesyndrome~

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