冬の微熱

(男1人:女1人:4千字)


【あらすじ】

その優しさは求めているものじゃない。

その笑顔は欲しかったものじゃない。

どうしたって心をくれないなら、代わりを求めることくらい許してほしい。


【登場人物】

マフユ:マフユ

マフユ:昔からトウヤの事を思っていた。


トウヤ:トウヤ

トウヤ:マフユと同い年。もうすぐ結婚する。




ー本編ー

マフユ:…ん、トウヤ?

トウヤ:あぁ、おきた?

マフユ:…うん。

マフユ:…みんなは?どうしたの?

トウヤ:さぁ。

トウヤ:俺もさっき起きたら、誰もいないでやんの。

マフユ:なにそれ。

マフユ:もう、後始末押し付ける気満々じゃん。

トウヤ:それな。

トウヤ:あーあ、俺もマフユが起きる前に逃げときゃよかった。

マフユ:はぁ?ゆるさないんだけど?

トウヤ:こっわ!

トウヤ:やっぱ帰っときゃよかったわー!

マフユ:へー、トウヤは飲み会の後片付けを、女の子一人にやらせるつもりなんだー。

マフユ:ふーん?

トウヤ:あ、その言い方はずるい。

トウヤ:そうやって俺の罪悪感を煽(あお)ろうったって、そうはいかないからな!

マフユ:…っふふ。

トウヤ:なんだよ。

トウヤ:どっかに面白い顔でもあんのかー?

マフユ:トウヤってほんと、嘘が下手だね。

トウヤ:はぁ?

トウヤ:こんな正直者に向かって、いきなりなにを仰(おっしゃ)いますかね、マフユさんや。

マフユ:起きたの、さっきじゃないんでしょ?

マフユ:私が、起きるまで待っててくれたんだよね。

トウヤ:んー、なんのことですかねー?

トウヤ:証拠もなしに、出鱈目(でたらめ)言っちゃあいけませんよ。

トウヤ:こう見えても俺ってば、ちまたじゃ正直者のトウヤちゃんで通ってましてねぇ。

マフユ:嘘ばっかり。

マフユ:じゃあ正直者さん。

マフユ:さっき起きたばっかで、どうして目の前にあったかそうなコーヒーがあるのか、説明してくれますよね?

トウヤ:あっ?

トウヤ:…お、おぉ!なんだこれはー!

トウヤ:いつの間にか俺の目の前にコーヒーが!

トウヤ:いつも頑張ってるトウヤ君に、小人さんからのプレゼントかな!?

マフユ:もう、バカなんだから…

マフユ:…バカみたいに、優しい。

トウヤ:バカは余計じゃない?

マフユ:バカだよ…

マフユ:トウヤはいつもそう。

マフユ:いつも、私のこと守ってくれて、さ。

トウヤ:マフユ…?

マフユ:子供の頃はさ、私、地味でどんくさかったじゃない。

トウヤ:そうだったっけ?

マフユ:うん。

マフユ:みんなが遊んでる後ろの方で、いつも取り残されてた。

マフユ:でも、トウヤだけは戻ってきて、私の手を引っ張ってくれた。

トウヤ:あー、そうだったかも。

トウヤ:マフユ、一人でいること多かったしな。

マフユ:そう?

マフユ:私の思い出だと、いつもそばにトウヤがいたよ。

トウヤ:なるほど、小人さんは俺だったか。

マフユ:ふふっ。そうかもね。

マフユ:……

マフユ:…ねえ、覚えてる?

マフユ:二人で結婚しようねって、約束したこと。

トウヤ:…いやー、どうだったっけ。

トウヤ:子供の頃だからさ、そんな事もあったかも。

マフユ:…バカ。

トウヤ:子供の頃って、意味も分からないまま大人の真似する事多かったもんな。

トウヤ:今思い返すとめっちゃ恥ずいわ。

マフユ:思い返さなくても、今でもトウヤは恥ずかしいから大丈夫。

マフユ:おっきくなっても、あのころと変わんない。

トウヤ:いや、そんなことはないだろ。

トウヤ:こう見えて、結構成長したほうだぜ?

マフユ:身長はね。

マフユ:それ以外は、子供のまんま。

トウヤ:いやいや、見てくださいよ。

トウヤ:あの頃はあんなにちっちゃかったトウヤ君も、今では見違えるくらいのダンディに…

マフユ:見違えるくらいダンディなトウヤさん。

マフユ:コーヒーはあったかいうちに飲んだ方が大人じゃありませんこと?

トウヤ:…もうちょっと寝かせたほうが、熟成されておいしいから。

マフユ:沸かした後のコーヒーを寝かせてどうすんのよ。

マフユ:素直に猫舌を認めればいいじゃない。

トウヤ:べ、別に猫舌じゃねーし!

トウヤ:舌が敏感肌なだけだし!

マフユ:はいはい。

マフユ:ふふっ。

トウヤ:ん、すぅ…

トウヤ:うん、やっぱりまだ寝足りないようだ。

マフユ:……

マフユ:ねえ、本当に覚えてない?

トウヤ:ん?なに、どれのこと?

マフユ:だから、約束。

トウヤ:だから、どれのことだよ。

マフユ:本当はわかってるんでしょ?

マフユ:今でも、好きなこと。

トウヤ:…好き?

トウヤ:誰が、誰のことを?

マフユ:私が、トウヤを。

トウヤ:そりゃあ、俺もマフユのことは好きさ。

トウヤ:言わせんなよ、恥ずかしい。

マフユ:そうじゃなくて。

トウヤ:そうだよ。

マフユ:トウヤ…

トウヤ:マフユのことは好きさ。

トウヤ:だからいいじゃん。

トウヤ:今までと変わらない。

マフユ:……

トウヤ:マフユ。

トウヤ:俺はさ、祝ってもらいたいんだよ。

トウヤ:俺の結婚を、誰よりもマフユに祝福してもらいたい。

マフユ:…できないよ。

トウヤ:俺はマフユに笑って送って欲しいんだ。

トウヤ:だから、さ。

トウヤ:頼むよ。

マフユ:そんなの…

マフユ:無理だよ!!

トウヤ:マフユ…

マフユ:好きなの!

マフユ:トウヤのこと、ずっとずっと好きなの!

マフユ:わかってるよ、好きになっちゃダメだって。

マフユ:諦めなきゃいけないって。

マフユ:でもどうしても、トウヤのことが好きで好きで、抑えられないの!

トウヤ:…無理だよ。

マフユ:わかってるよそんなこと!

マフユ:でももう心がそうなの!

マフユ:トウヤのことを求めちゃうの!

マフユ:トウヤが欲しいって思っちゃうの!

トウヤ:俺たちは…

マフユ:聞きたくない!

マフユ:そんなの関係ないもの!

マフユ:ねえ、なんでダメなの?

マフユ:なんでトウヤの隣にいるのが私じゃないの?

トウヤ:もう、決めたんだ。

マフユ:それなら私だって子供の時からずっとトウヤのことが好きだった。

マフユ:私の方か先だった。

マフユ:誰よりもトウヤを愛してるのはずっとずっと私だった。

トウヤ:それでも、俺が結婚を決めたのはマフユじゃない。

トウヤ:だから、ごめん。

マフユ:っ…!

マフユ:そう、だよね。

マフユ:知ってる。トウヤはそういう人だって。

トウヤ:ごめん。

マフユ:謝らないでよ。

マフユ:私がトウヤを困らせてるって、私だってわかってるよ…

トウヤ:それでも、マフユを泣かせたのは俺だから。

マフユ:そりゃ泣くよぉ…だって…本当に…好きなんだもん…

トウヤ:うん。

マフユ:好きだけど、ダメだってこともわかってるの…

トウヤ:うん。

マフユ:ねえ、人が人を好きになるのって、いけないことなのかな?

トウヤ:…そんなことない。

マフユ:じゃあ、なんで私たちはこうなのかな…

トウヤ:……

マフユ:ねえ、トウヤ。

トウヤ:なに、マフユ。

マフユ:トウヤは、私のこと、キライ?

トウヤ:そんなはず、ないだろ。

マフユ:じゃあ、トウヤは、私のこと、スキ?

トウヤ:……

マフユ:…そっか。そうだよね。

マフユ:ねぇ。

トウヤ:え、マフユ!?

マフユ:動かないで。このままでいて。

トウヤ:動けないんだけど…

マフユ:お願いだから…

トウヤ:……

マフユ:…トウヤの答えはわかってた。

マフユ:この思いが絶対にかなわないってことも。

マフユ:でも、諦めるのも、すぐにはできないの。

トウヤ:…そう、だよな。

マフユ:…うん。

トウヤ:でも、いつか、さ。

マフユ:…ん。

トウヤ:いつか、くるよ。

マフユ:なにが?

トウヤ:その気持ちが、過去になる時が。

マフユ:……

トウヤ:俺は、きたよ。

マフユ:…え?

トウヤ:俺の気持ちは、思い出になった。

トウヤ:そんなの嫌だったし、諦めたくなかった。

トウヤ:もしかしたら、自分ならどうにかできるんじゃないかとも思ってた。

トウヤ:でも、さ。

トウヤ:どうにかなったとしても、それで満足なのは俺だけなんだよ。

トウヤ:それじゃ、意味ないって気づいてさ。

マフユ:…うん。

トウヤ:だから、大丈夫だよ。

トウヤ:今までもそうだったし、これからも変わらない。

トウヤ:だから、大丈夫。

マフユ:……

マフユ:うん…

マフユ:そう、なんだね…

トウヤ:そうだよ。

トウヤ:俺はそうだった。

マフユ:トウヤ。

トウヤ:なに?

マフユ:するよ。私も、思い出に。

トウヤ:…そう。

マフユ:だから、私の事、忘れないでほしいの。

トウヤ:忘れるわけ…

マフユ:そうじゃない。そうじゃないよ、トウヤ。

トウヤ:え…

マフユ:今までずっと一緒にいた。

マフユ:今までそばで守ってくれた。

マフユ:そんなトウヤが私は好き。

トウヤ:うん…

マフユ:だから、さ。

マフユ:この気持ちを思い出にするから。

マフユ:最後のお願い。

トウヤ:マフユ…

マフユ:して。

トウヤ:……

マフユ:ねぇ、だめ?

トウヤ:っ…!

トウヤ:それは…

マフユ:今だけでいいの。

マフユ:これは間違いだから。

マフユ:悪いのは全部私なんだから。

トウヤ:駄目だ、マフユ…

マフユ:お願い、トウヤ。

マフユ:これで終わりにするから…

マフユ:これでちゃんと、思い出にするから…

マフユ:だから、トウヤ…

トウヤ:……

トウヤ:マフユ。

ー間ー

(短くとってもいい。長くとってもいい)

マフユ:…ん、トウヤ。

マフユ:……

マフユ:(息を吐く)

マフユ:……

マフユ:おにい、ちゃん…。

ー了ー

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