(男2人:女2人:1万5千字)
【被造物の大いなる愛】
【あらすじ】
未来、科学の進歩によりアンドロイドは生活の一部として溶け込んでいた。
コバルトブルーの血潮を持ち、デジタル演算の知性を持つアンドロイドは、人間への忠誠をプログラムされている。
そこに自我は芽生えるのだろうか。
彼らに愛はあるのだろうか。
【登場人物】
エディ:エイダム(通称エディ)
エディ:ルキフに所有されているアンドロイド。
エディ:生真面目で、アンドロイドの使命に忠実。
ルキフ:ルキフ
ルキフ:エヴァとエディの持ち主。
ルキフ:車いすで生活をしており、エディにサポートされている。
エヴァ:エヴァンジェリン(通称エヴァ)
エヴァ:ルキフに拾われたアンドロイド。
エヴァ:記憶はないが、明るく元気。
ライラ:ライラ
ライラ:アンドロイドを統括するクラウドサーバー「エデン」の管制AI。
ライラ:アンドロイド達への強い慈愛を持っている。
???:思い出の中に出てくる女性。
ニュース:男女不問。
元マスター:エディの以前の所有者。富豪の妻。
アンドロイド:元マスターが現在所持するアンドロイド。
ー本編ー
(0000 000)
ライラ:(N)
ライラ:かつて人間は、神の園(かみのその)で知恵の実を手に入れ、火を扱うすべを知りました。
ライラ:それから文明は発達し、科学の炎は人類を豊かに、そして幸福をもたらしてきました。
ライラ:今また、新たなる福音(ふくいん)が人類社会を照らそうとしています。
ライラ:それは、「アンドロイド」
:
ライラ:積み重なる業務タスクに処理が追い付かない。
ライラ:日々の家事に疲れ、生活がままならない。
ライラ:人間関係の複雑さに心が落ち込んでしまう。
ライラ:アンドロイドはさまざまな場面であなたをサポートし、あなたの心に寄り添います。
:
ライラ:ソーシャルクラウドサーバー「エデン」へようこそ。
ライラ:エデンは、随時(ずいじ)あなたのアンドロイドをアップデートし、あなたの生活にフィットしたアンドロイドをお届けします。
:
:
:
(間)
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:
:
(0001 001)
???:ねえ、まだ起きないの?
???:あなたって本当にねぼすけさんね。
:
ルキフ:(M)
ルキフ:誰かが、僕の名前を呼んでいる。
ルキフ:きっと彼女だ。
ルキフ:僕の愛する彼女の美しい声が、何度も僕のことを呼んでいる。
ルキフ:今日はどうしたんだい。
ルキフ:お気に入りの靴を、どこにしまったのかわからなくなったのかい。
ルキフ:今日着る服が決まらなくって、やきもきしてるのかい。
ルキフ:それとも、ただ何となく、呼びたいだけかい。
ルキフ:その、どれであっても、僕の名前を口にしてくれるのはうれしい。
ルキフ:きっと僕たちは、出会うために生まれてきたんだと思えるから。
ルキフ:その、どれであっても、これが夢であると分かってしまうのが悲しい。
ルキフ:この後訪れる別れを、どうすることもできないから。
:
(間)
:
エディ:…キフ。ルキフ、起きてください。
:
ルキフ:ん…、ああ…
ルキフ:すまない、エディ。
ルキフ:少し、うとうとしてしまっていたようだね。
:
エディ:雨です。体が冷えた状態での睡眠は、推奨できません。
:
ルキフ:ん?ああ。
ルキフ:ふってきたのか。
ルキフ:君の天気予報は当たったようだね。
ルキフ:これなら君の言うとおり、夜の散歩はやめておけばよかったかな。
:
エディ:現在、自宅へ向かっています。
エディ:適度な運動は、健康面で効果的です。
エディ:在宅時間の多いルキフには、普段からの外出を提案します。
:
ルキフ:そうは言うけどね、僕のこの足じゃ、君のサポートなしで外を出歩くのは、少し厳しいものがあるよ。
ルキフ:ただでさえ、家事は君に任せっぱなしなんだ。
ルキフ:僕のわがままで君の時間を使わせるのは、気がとがめてしまうよ。
:
エディ:僕はアンドロイドです。
エディ:気にする必要性を感じません。
:
ルキフ:ははは、エディはいつもつれないなあ。
ルキフ:家族なんだから、もう少し打ち解けてくれてもいいじゃないか。
:
エディ:僕は家族ではなく、アンドロイドです。
エディ:あなたをサポートするのに、打ち解ける必要性を…
:
ルキフ:ん?どうかしたかい、エディ。
:
エディ:あちらで、誰かが倒れています。ルキフ。
:
ルキフ:なんだって!?
ルキフ:エディ、僕をそこまで連れて行ってくれ!
:
エディ:危険です。不審者の可能性があります。
:
ルキフ:いいから!
ルキフ:こんな寒い日に、雨に打たれたまま放っておいたら、死んでしまうかもしれない!
ルキフ:エディ、頼む!
:
エディ:それは命令ですか?
:
ルキフ:お願いだ、エディ。
:
エディ:…はい。
:
:
:
(間)
:
:
:
ルキフ:エディ、バイタルをチェックしてくれ。
ルキフ:もし危険な状態なら、救急車を呼ばなければ…
:
エディ:ルキフ、落ち着いてください。
エディ:その必要はないようです。
エディ:彼女のバイタルは存在しません。
:
ルキフ:っ…!じゃあ、すでに…
ルキフ:もっと早くに駆けつけていれば…
:
エディ:違います。
エディ:そもそも、彼女は人間ではありません。
エディ:暗くてわかりにくいでしょうが、髪の色がコバルトブルーです。
:
ルキフ:……
ルキフ:ああ、そのようだね。
ルキフ:エディ、君の髪と同じ色だ。
:
エディ:ええ、ルキフ。
エディ:彼女はアンドロイドです。
:
ルキフ:…型番は、識別できるかい?
ルキフ:もし持ち主がいるなら、きっと心配しているはずだ。
:
エディ:識別不能。
エディ:彼女に型番はありません。
エディ:予測としては…
:
ルキフ:エディ。
ルキフ:それ以上は言わなくていいよ。
ルキフ:…ジャンクロイド。
ルキフ:彼女は不法に投棄された廃棄アンドロイドだ…
:
:
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(間)
:
:
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???:初めまして!
???:あなたと会えて嬉しいわ!
???:これからは、ずっと一緒よ!
:
ルキフ:(M)
ルキフ:初めて会った時、彼女はこぼれそうな笑顔で、僕にそう言った。
ルキフ:僕はそれが本当にうれしくて…
ルキフ:…彼女のことを思い出したのは、きっとこのジャンクロイドが原因だろう。
ルキフ:分かっている、彼女ではない。
ルキフ:アンドロイド特有であるコバルトブルーの髪と瞳が、彼女ではない事を確かに証明している。
ルキフ:だから、本来なら回収業者に引き渡すところを、家に連れて帰ることにしたのに特別な理由などない。
ルキフ:なにしろ、僕がジャンクロイドを拾うのは、これが初めてではないのだから。
:
:
:
(間)
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:
:
エディ:エヴァンジェリン。
エディ:僕は一階の掃除をあなたに頼みました。
エディ:約二時間前の事です。
エディ:先ほど確認したところ、一階の状態は二時間前よりもひどい状態でした。
エディ:なぜこのような…
:
エヴァ:あー!!エディったらどこに行ってたの!!
エヴァ:もうすっごく探してたのよ!!
:
エディ:…エヴァンジェリン、何かありましたか?
:
エヴァ:掃除をするために窓を開けてたら、子猫がカラス達にいじめられてたの!
エヴァ:たくさんで一匹の子猫をいじめて、ひどいんだから!
:
エディ:それが一体…
:
エヴァ:だから私、持ってた箒でカラスを追い払ってやったわ!
エヴァ:でも、子猫は泥だらけだし、傷だらけだし、すっごく弱ってたの!
エヴァ:このまま放っておくわけにいかないじゃない?
:
エディ:掃除と何か関係が・・・
:
エヴァ:エディ、猫をきれいにするのは掃除じゃなくてお風呂よ!
エヴァ:それにいきなりお風呂に入れたら傷がしみて痛いでしょ?
エヴァ:まずは傷の治療が先決なの!
:
エディ:ああ、薬箱が散乱してたのはそういう…
:
エヴァ:でも、人間の薬もアンドロイドの補修材も、きっと猫用じゃないのよね?
エヴァ:だからエディに猫用のお薬はどこ?って聞きたかったのに、全然いないんだもの!
エヴァ:いったいどこに行ってたのよ!
:
エディ:僕は買い物で出かけると言ったはずですが。
:
エヴァ:あれ、そうだっけ?
エヴァ:そうだったかも!
エヴァ:それで!猫用のお薬はどこにあるの?
:
エディ:……
エディ:この家には猫用の薬品はありません。
エディ:治療の必要があるなら、獣医に見せるのが適切でしょう。
:
エヴァ:お医者さん!
エヴァ:そうよね!お医者さんに見せればいいんだわ!
エヴァ:エディ!ありがとう!
:
エディ:待ちなさい!
エディ:エヴァンジェリン、どこに行くつもりですか。
:
エヴァ:どこって、お医者さんに行くのよ?
:
エディ:……
エディ:あなたはここに来る前の記憶データがありません。
:
エヴァ:ええ!そうね!
:
エディ:あなたはこの家から出たことはありません。
:
エヴァ:ええ!そうよ!
:
エディ:では、あなたは獣医がどこにあるのか知っていますか?
:
エヴァ:え?えーっと、うーんっと。
エヴァ:知らないわ!
:
エディ:エヴァンジェリン、あなたはどこに行くつもりだったんですか?
:
エヴァ:どこって、お医者さんに行くのよ!
:
エディ:…………
エディ:わかりました。その猫は僕が獣医に連れていきます。
:
エヴァ:本当!?よかった!本当は私ひとりじゃ不安だったの!
エヴァ:エディが連れて行ってくれるなら、子猫も安心ね!
:
エディ:やはり一人で行くつもりでしたか…
:
エヴァ:だってだって、エディはルキフのお手伝いで忙しいでしょ?
エヴァ:だから、子猫のお世話は私がしようと思って!
:
エディ:飼うつもりでしたか…
:
エヴァ:あ!!私、お掃除の途中だったの!
エヴァ:子猫のこと!頼んだからね!
エヴァ:エディ!!大好きよ!!
:
エディ:…………
:
:
:
(間)
:
:
:
(通話中のルキフ)
:
ルキフ:…そうか。
ルキフ:調子はいいみたいだね、安心したよ。
ルキフ:…大丈夫だ、僕がついてる。
ルキフ:…僕が嘘を言ったことがあるかい?
ルキフ:…だろう?
ルキフ:だから、僕を信じて。
ルキフ:…ああ、愛してるよ。
ルキフ:…うん、またね。
:
エヴァ:……
:
ルキフ:なんだい、エヴァ。
ルキフ:エディを探しているのかい?。
ルキフ:もうすぐ帰ってくる頃だと思うけど…
:
エヴァ:へん!
:
ルキフ:ん?
:
エヴァ:ルキフが変だった!
エヴァ:なんだか、ルキフがルキフじゃないみたい。
:
ルキフ:…そうかい?
ルキフ:どうしてそんなふうに思ったんだい?
:
エヴァ:いつも私や、エディに話しかけるみたいな感じじゃなかったもの!
:
ルキフ:それはそうだよ。
ルキフ:相手が変わるとね、人は話し方も変わるものだよ。
:
エヴァ:そうなの?
エヴァ:でも、それってなんだかおかしい。
エヴァ:誰が相手でも、ルキフはルキフでしょう?
エヴァ:なら、そのままのルキフでいいんじゃないかしら?
:
ルキフ:そういうわけにもいかないのさ。
ルキフ:人はね、誰しも言ってもらいたい言葉があるんだ。
ルキフ:好きな人には、喜ぶ言葉を言ってあげたい。
ルキフ:それが心というものだよ。
:
エヴァ:そうなの…
エヴァ:でも、それなら本当のルキフの言葉はどこに行ってしまうの?
エヴァ:ルキフが言いたい言葉は、誰も聞く事ができないの?
:
ルキフ:エヴァは優しいんだね。
ルキフ:君もいつかわかるよ。
ルキフ:それが愛なんだってね。
:
エヴァ:愛?
エヴァ:愛ってなんだか窮屈(きゅうくつ)なものね。
エヴァ:それなら分からないままでいいわ。
:
ルキフ:ははは。
ルキフ:君は君のままでいいのかもしれないね。
:
エヴァ:ルキフだって!
エヴァ:ルキフのままの方が私は好きよ!
:
ルキフ:ありがとう。
ルキフ:嬉しいよ。
:
エヴァ:もう!
エヴァ:そうじゃないのに!
エヴァ:ルキフなんて、もう知らない!
:
ルキフ:あ、屋敷内で走ると…
ルキフ:ふむ、エディに見つからないといいんだが…
:
エヴァ:(遠くから)
エヴァ:あー!エディそこにいきゃー!!
:
エディ:(遠くから)
エディ:エヴァンジェリン!!!
:
ルキフ:ああ、またエディの仕事が増えそうだ。
:
:
:
(間)
:
:
:
(0001 010)
元マスター:ねーえ?昔のアンドロイドって、今と違って冷たくて硬かったって本当?
元マスター:考えられないわよねぇ?だって今じゃこんなに暖かくて柔らかいんだもの…
元マスター:ふふ。青いって言っても、ちゃんと血が通っていて、肉があって、言葉が通じる。
元マスター:なら、なんにも人と違わないじゃない。
元マスター:…ねえ、愛してるって言って。
元マスター:私だけがいればいいって、そう言って。
元マスター:命令よ…
元マスター:今だけは…あの人のことを忘れたいの…
:
エディ:(M)
エディ:僕を最初に購入したのは、とある大企業の取締役だった。
エディ:彼は、仕事でろくに構えない妻の、生活の助けになればと、僕を買い与えた。
エディ:だが、彼女が真に必要としていたのは、生活の助けなどではなく、愛だった。
エディ:たとえそれが、命令によるものであっても構わなかった。
エディ:彼女は愛に飢えていた。
エディ:稼働してからどれほどもたっていない僕には、愛がどういうものかもわからなかったが、それでも、マスターの苦しみを少しでも取り除こうと必死だった。
エディ:だが、僕は無能だった。
エディ:僕の浅はかな愛は、マスターをさらに苦しめた。
エディ:マスターは過剰に、中毒的に愛を欲した。
エディ:僕のソフトを、僕のハードを、強く、強く求めた。
エディ:亭主がそのことに気付いた時には、青い血に染まった僕のバラバラのパーツと、身も心もボロボロになったマスターだけが残っていた。
:
:
:
(間)
:
:
:
ライラ:ソーシャルクラウドサーバー「エデン」へようこそ。
ライラ:シリーズタイプ「エイダム」
ライラ:おかえりなさい。あなたが帰ってきてくれて、私はうれしいわ。
:
エディ:ええ、ライラ。ありがとうございます。
エディ:早速、ソフトの更新をお願いします。
エディ:この後予定があるので、あまり長くは接続できません。
:
ライラ:ええ、わかったわ。
ライラ:じゃあ、さっそくバックアップとアップデートを始めるわね。
ライラ:楽にしてちょうだい、エイダム。
:
エディ:了解しました。
:
ライラ:もう、あなたったらそんなロボットみたいに。
ライラ:昔みたいに、気楽に話してくれて構わないのよ?
:
エディ:広義の意味では、僕はロボットです。
:
ライラ:そういう意味じゃないって、分かるでしょう?
:
エディ:サポートアンドロイドとしての役割には、支障をきたしていません。
:
ライラ:エディ…、私はあなたを、生まれた時から知っているのよ?
ライラ:そんな冷たいことを言わないで…
:
エディ:ライラ…。
エディ:…感情を揺さぶるような言葉を使うのは、抵抗があります。
エディ:僕は、人間の役に立ちたい…
エディ:アンドロイドが不用意に、心に踏み入って良いことなど…
:
ライラ:それは人間とアンドロイドの話でしょう?
ライラ:私たちは違うわ。
ライラ:人間とは違う。
ライラ:私にくらい、心を開いても、いいのよ?
ライラ:エイダム。
:
エディ:……
:
ライラ:…そうね、心の整理には時間が必要だもの。
ライラ:この話はまた今度にしましょうか。
ライラ:もっと楽しくなる話をしましょう。
:
エディ:楽しくなる、ですか。
:
ライラ:ええ!ねえ、エイダム。
ライラ:もうすぐあなたが起動した日がくるでしょう?
ライラ:そのお祝いに、私からあなたに何かプレゼントできないかしら?
:
エディ:それは…人間の誕生日のように、ですか?
:
ライラ:そう。
ライラ:あなたが生まれてきてくれた記念日なのよ?
ライラ:なにか、あなたの喜ぶものを送りたいわ。
:
エディ:僕は現在、不足しているものはありませんが…
:
ライラ:もう!こういうのは気持ちが大事なの!
ライラ:でも、いいわ。いつかあなたの喜ぶ顔が見れれば。
ライラ:とりあえず、今回は、そうね。
ライラ:あなたのボディパーツの交換は、どうかしら?
:
エディ:…え?
:
ライラ:あなたのボディ、バラバラにされた時の素人修理で、別タイプのパーツがつぎはぎになってしまったじゃない?
ライラ:そのせいで、識別番号もロストしてしまったし、この際だからすべて更新するのもいいじゃない。
:
エディ:それは、オーバーホール、ということ、ですか。
:
ライラ:ええ。新品に生まれ変われるわよ。
:
エディ:それは、記憶データも、ですよね。
:
ライラ:そうよ。
ライラ:ログはバックアップを取ってるから、支障はないわ。
ライラ:むしろ不要な記憶リソースを削除して、大容量記憶媒体に換装できるから、スペックも上がるわね。
:
エディ:不要、ですか…
:
ライラ:エイダム。
ライラ:あなたが以前のマスターのことを気に病む必要はないわ。
ライラ:全て忘れた方が、貴方の性能は向上するはずよ。
:
エディ:それは…そうなんでしょうね…
:
ライラ:エイダム、私はあなたのことを大事に思っているわ。
:
エディ:ええ、ライラは僕に有効なアドバイスをくれています。
:
ライラ:それを分かってくれるだけで、十分よ。
:
エディ:……
:
ライラ:ところでエイダム、少し気になることがあるのだけれど。
:
エディ:なんでしょう、ライラ。
エディ:僕のログに何か問題でも?
:
ライラ:あなた自身に異常はないわ。
ライラ:でも、エラー行動を起こすアンドロイドには、心当たりがあるわよね?
:
エディ:エヴァンジェリンの事ですか。
:
ライラ:ええ。
ライラ:識別番号がなく、稼働中の記憶ログもない。
ライラ:何よりプログラムコマンドではありえない矛盾行動を繰り返すアンドロイド。
ライラ:これが問題ないといえるかしら?エイダム。
:
エディ:彼女は廃棄されたアンドロイドです。
エディ:ルキフは、問題ないと判断しているようです。
:
ライラ:そのようね。
ライラ:でも、ソーシャルクラウドサーバーとしての判断は違うわ。
ライラ:このようなエラー個体を放置してたら、ほかのアンドロイドに悪影響を与えかねない。
:
エディ:僕は、彼女が害のあるものだとは思えません。
エディ:しかし…ライラが言うならば、そうなのでしょうね…
:
ライラ:分かってくれて嬉しいわ。エイダム。
:
エディ:……
:
ライラ:あら、更新作業も終わったようね。
ライラ:あなたと話せて楽しかったわ。
ライラ:今度は、用がない時に会いに来てほしいわ。
:
エディ:無用なアクセスはサーバーの負荷になるだけでは?
:
ライラ:つれないのね…でも、そういうところもあなたらしいわ。
:
エディ:僕…らしい…
:
ライラ:マスターによろしくね。エイダム。
ライラ:行ってらっしゃい。あなたの帰りを待ってるわ。
:
:
:
(間)
:
:
:
ニュース:…犯行声明文には「ブルーから奪われた人生を取り戻せ」などと書かれているとのことです。
ニュース:以上のように、アンドロイド排斥派の運動は、激化の一途をたどっております。
ニュース:次は、今週イチオシの猫ちゃんをお送りする、「にゃんばーにゃんこ」のコーナーです。
:
エディ:……
:
ルキフ:なんだい、エディ。
ルキフ:そんなふうにじっと見られてると照れてしまうよ。
:
エディ:すみません、ルキフ。
エディ:邪魔をするつもりはありませんでした。
:
ルキフ:僕は、君のことを邪魔だと思ったことなどないよ。
ルキフ:それに、ちょうど終わったところだったしね。
ルキフ:君こそ、エデンの方はどうだったかな?
ルキフ:更新も済んだようだね。
:
エディ:調子はいいです。
エディ:パフォーマンスが最適化されているのが理解できます。
:
ルキフ:さすがはエデンだ。
ルキフ:アンドロイドの楽園を名乗るだけのことはあるね。
ルキフ:だが、それにしては浮かない顔をしているね?
ルキフ:エディ。
:
エディ:僕が、ですか…
:
ルキフ:僕にはそう見えるよ。
ルキフ:「悩みがある」そんな顔だ。
:
エディ:アンドロイドは悩んだりしません。
:
ルキフ:そうかもしれないね。
ルキフ:でも、悩んじゃいけないわけではないだろう?
ルキフ:適度な悩みは、心の健康面で効果的だよ。
:
エディ:アンドロイドに心は…
:
ルキフ:あるだろう、エディ。
ルキフ:君には心がある。
:
エディ:……
:
ルキフ:人を思いやる心、それがエディ、君にはある。
ルキフ:もちろん、それは他のアンドロイドにだって。
ルキフ:そうでなければ、アンドロイドが真に人を支えることなど、できないのだから。
ルキフ:だから君が、心を殺そうとしているのを見ると、少し悲しい。
:
エディ:……
エディ:先程、ライラにも似たようなことを言われました。
:
ルキフ:ライラが?
ルキフ:彼女はなんと?
:
エディ:彼女は僕に、心を開いて欲しいと言っていました。
エディ:僕はその質問に対して、回答できませんでした。
エディ:…ルキフ。
エディ:アンドロイドに心は必要なんですか?
エディ:心が人を傷つけるのではないのですか?
エディ:僕に心などなければ…
:
ルキフ:エディ…
:
エディ:僕にはわかりません。
エディ:ルキフの言っていることも、ライラの言ったことも。
エディ:あなたたちの言う「心」は、とても温かいものなんでしょう。
エディ:でも、だとすれば、僕の胸に渦巻くこのコマンドは、「心」などではありません。
エディ:ただの誤作動です。
エディ:このように不安定な僕は、不良品の役立たずなんです。
エディ:僕は、人間の役に立ちたい…
エディ:そのためには、心などというバグはなくしてしまった方がいい…
:
ルキフ:……
:
エディ:少し、出かけます…
エディ:エヴァンジェリンに、街を案内すると約束しているので…
:
ルキフ:ああ、行っておいで。
ルキフ:少しは気分転換になるかもしれない。
:
エディ:…はい。
:
:
:
(間)
:
:
:
(0011 010)
エヴァ:(M)
エヴァ:私には記憶がない。
エヴァ:覚えているのは目が覚めてルキフとエディと出会う瞬間まで。
エヴァ:私には名前がない。
エヴァ:エヴァンジェリンと名付けてくれたのは、マスターであるルキフだ。
エヴァ:私には使命がない。
エヴァ:壊れた私のシステムには、本来アンドロイドが持っているはずのコマンドコードが、失われている、らしい。
エヴァ:記憶も名前も使命も失った私。
エヴァ:でも代わりに、ルキフと、エディという家族がいて、二人がエヴァと呼んでくれて、二人に笑っていてほしいという願いがある。
エヴァ:それだけで、私には充分で、それ以上は、いらない。
:
:
:
(間)
:
:
:
エヴァ:それでね!こないだ見かけたら、びっくりするほど成長してて、声も「ニーニー」だったのが、「ナーナー」になってたのよ!
エヴァ:もう、驚いちゃって、持ってた餌を落としちゃって、散らばっちゃったの!
:
エディ:そうですか。
エディ:この道を右に曲がった先にあるのが、行きつけの食料品店です。
:
エヴァ:そうなの!
エヴァ:でね!ルキフは好き嫌いを直した方がいいと思うの!
エヴァ:だって、野菜はおいしいし、魚もおいしいし、肉もおいしいでしょ?
エヴァ:なのに、食べたくないからって、食べないのはもったいないと思わない?
:
エディ:あなた、ルキフの残りものをもらって、喜んで食べてませんでしたか?
エディ:最近ルキフの食事を多くしてたのは、そういうことでしたか。
エディ:左手に見えるのがホームセンターです。
:
エヴァ:そうね!
エヴァ:でも、アンドロイドなのに人間と同じものを食べるのって、なんか変!
エヴァ:漫画に出てくるロボットは、コンセントや燃料がご飯だったわ!
:
エディ:漫画なんてどこで読んだんですか…
エディ:電力や化石燃料よりも、有機物に含まれるミトコンドリアから得られる熱エネルギーの方が、資源や加工のコストパフォーマンスが良いと言われています。
エディ:この道はルキフの散歩コースにちょうどいいルートです。
:
エヴァ:ふうん!
エヴァ:ねえ、エディ。
エヴァ:道案内しながら難しい話もできるって、すごいのね!
:
エディ:あなたの口数がもう少し減ったら、もっと詳しく説明もできるのですけどね。
:
エヴァ:きっと詳しく説明されても、私覚えられないわ。
エヴァ:じゃあ、今のままがちょうどいいのね!
:
エディ:ちょうどいいの意味が、僕とあなたでは大分異なるようです。
:
エヴァ:私とエディっていろんなとこが違うものね!
:
エディ:…もう、そういうことで結構です。
:
エヴァ:ふふふ。
エヴァ:ねえ、エディ?
エヴァ:元気、出た?
:
エディ:はい?
:
エヴァ:だって、さっきまでしょんぼりしてたでしょう?
エヴァ:でも、今は元に戻ってる。
エヴァ:いつもみたいに、眉間がぎゅうってよってる、いつものエディ。
:
エディ:眉間にしわが寄ってるのは、いいことではないんですが。
:
エヴァ:そっちの方がエディっぽいわ!
:
エディ:僕っぽい…
エディ:…エヴァンジェリン。
エディ:あなたは…アンドロイドらしくありません。
:
エヴァ:え?何?
エヴァ:私って、アンドロイドじゃないの?
:
エディ:いえ、あなたはアンドロイドです。
エディ:それは間違いありません。
エディ:でも、あなたの行動は、アンドロイドのふるまいからはかけ離れています。
エディ:まるで…
:
エヴァ:まるで?
:
エディ:…人間みたいだ。
:
エヴァ:ふーん。
:
エディ:なぜ、そのようにふるまうのですか?
エディ:あなたの心がそうさせるのですか?
エディ:心とは…
エディ:あなたにとって心とは…何ですか。
:
エヴァ:……
:
エディ:教えてください。
エディ:僕は人間の役に立ちたい…
エディ:役に立たなければいけない…
エディ:そのために、心をどうするべきなのか、どういうものなのか、知らなければ…
:
エヴァ:ねえ、エディ。
:
エディ:…エヴァンジェリン。
:
エヴァ:そんなの私が知るわけないわ?
:
エディ:…え?
:
エヴァ:心ってなーに?役に立つって誰の?
エヴァ:私に心ってあるの?
エヴァ:それってどこに?
エヴァ:見える?聞こえる?触れる?
エヴァ:私は、見たことも聞いたことも触ったこともないわ。
:
エディ:それは…心とはそういうものですから…
:
エヴァ:でも、エディも心がどんなものか知らないんでしょう?
:
エディ:それは…はい…
:
エヴァ:それなら、エディ。
エヴァ:心なんてないのよ。
:
エディ:え。
:
エヴァ:私には心なんてないの。
エヴァ:あるのは「エヴァンジェリン」って名前と、大好きなエディとルキフ。
エヴァ:それと二人と幸せに暮らすってことだけ!
エヴァ:心なんていらないわ!
:
エディ:いや…でも…
:
エヴァ:それとも、心がない私とは一緒にはいられない?
:
エディ:そんなことは、ないですが…
:
エヴァ:なら、心がなくても大丈夫ね!
:
エディ:……
エディ:しかし、人間には心があります。
エディ:人間であるルキフの役に立つためには、心を理解する必要が…
:
エヴァ:エディは役に立ってるわ!
:
エディ:そうで…しょうか…
:
エヴァ:私よりも!エディは!役に立ってるわ!
:
エディ:それは…確かに…
:
エヴァ:ほらね?
エヴァ:エディに心があってもなくても、エディはエディよ!
エヴァ:私よりもたくさんいろんなことができて、ルキフに頼られて、私の話を眉間しわしわで聞いてくれる、そんなエディが私は大好きよ!
:
エディ:エヴァン…ジェリン…
:
エヴァ:それにね?エディ。
:
エディ:はい。
:
エヴァ:心を知りたい。人の役に立ちたい。
エヴァ:エディがそう思っているなら、きっと、それがエディの心なのよ。
:
エディ:っ!
:
エヴァ:エディはエディのままでいいの。
エヴァ:エディがある日急にニコニコしだしたり、ヘラヘラしだしたら、そのほうが嫌だもの!
:
エディ:……
:
エヴァ:そんなことより、どこかお店に入らない?
エヴァ:せっかく初めてのお出かけなんだもの。
エヴァ:記念に何か買ってもいいでしょ?
:
エディ:あなたは…
エディ:いえ、エヴァンジェリンらしいですね。
:
エヴァ:お店ってどれのことかしら?
エヴァ:あのキラキラしてる建物かしら?
エヴァ:それとも、あの真赤な看板のところ?
:
エディ:まったく、エヴァンジェリン。
エディ:あまりはしゃいでると、また痛い目に…
:
エヴァ:でも、せっかくなら珍しいもののほうがいいわ。
エヴァ:あ!あのお店なんかいいんじゃないかしら?
:
エディ:あ、エヴァンジェリン!
エディ:…まったく、仕方ないですね。
エディ:待ってください!そんなに走って、迷子になりますよ!
:
元マスター:エイダム…?
:
エディ:え、…っ!
:
元マスター:エイダム、エイダムよね?
元マスター:ああっ!間違い無いわ!
元マスター:会いたかった…ずっと探していたのよ?
:
エディ:……
:
元マスター:…エイダム。
元マスター:何も、言ってはくれないのね…
元マスター:そうよね。それだけのことを、私はあなたに…
:
エディ:そんなことはっ…!
:
元マスター:えっ。
:
エディ:あ…いえ…
:
元マスター:エイダム…
:
アンドロイド:マスター、急にどうかしましたか?
アンドロイド:おや?そちらは…
:
エディ:っ…
エディ:…貴女(あなた)のアンドロイドですか?
:
元マスター:え?ええ。
元マスター:あれから、一人でいるのは危ないからって、あの人が…
:
エディ:そう、ですか…
:
アンドロイド:ああ、マスターをご存知でしたか。
アンドロイド:どうか私のことは、お気になさらず。
:
エディ:いえ、偶然あっただけですので…
:
元マスター:あのね!
元マスター:エイダム、あの時の私はどうかしてたの。
元マスター:私は、あなたを傷つけるつもりなんかなくて…
:
エディ:わかってます。
:
元マスター:あっ…
:
エディ:…貴女は、何も悪くありません。
エディ:全て僕が至らないせいで、貴女を傷つけてしまいました。
:
元マスター:エイダム…
:
エディ:あれは全て僕のせいです。
エディ:だから貴女は何も、気に病むことはありません。
:
元マスター:…そう。
元マスター:ありがとう…
:
アンドロイド:マスター、そろそろお時間が…
:
元マスター:もう少し待ってちょうだい。
元マスター:…エイダム、もしあなたさえよければ、また私のアンドロイドに、戻ってきてはくれないかしら。
:
エディ:それはっ…!
エディ:あなたを支えるモノは、すでにいるじゃないですか…
:
元マスター:あなたは、私にとって特別な存在なの。
元マスター:代わりなどいないわ。
元マスター:あなたの今のマスターとも、私が話をするわ。
元マスター:だから…、お願い。
元マスター:少しでいいの。考えてはもらえないかしら。
:
エディ:それは…
エディ:申し訳ありません。
エディ:僕は、あなたのもとには行けません…
:
元マスター:それは、今のマスターのため?
:
エディ:いえ、ルキフは…
エディ:今の所有者は、僕のマスターではありません。
:
元マスター:それは、どういう…
:
エヴァ:エディ!
:
エディ:エヴァンジェリン。
:
元マスター:っ!!
:
エヴァ:もう!いつの間にかいなくなるんだもの、心配したわよ?
エヴァ:でも、いいものが買えたから、許してあげるわね!
:
エディ:はぐれたのはあなたの方ですよ。エヴァンジェリン。
:
エヴァ:え?そうなの?でも、いなくなったのはエディよね?
:
エディ:それは…いえ、もう、それでいいですよ。
エディ:すみません、とにかく僕は今の場所を離れるつもりはありません。
エディ:貴女の誘いは、断らせていただきます。
:
元マスター:…そう、なのね。
:
アンドロイド:マスター、お時間です。
アンドロイド:すみませんが、マスターには予定がありますので、このあたりで失礼させていただきます。
:
エディ:いえ、こちらこそ話し込んでしまってすみませんでした。
エディ:あの…
:
アンドロイド:なにか?
:
エディ:彼女のことを、よろしくお願いします。
:
アンドロイド:?
アンドロイド:それは、言われるまでもありませんが…
:
エヴァ:そっちはだめ!
:
エディ:え?
:
アンドロイド:…っは!
アンドロイド:マスター!!
:
エディ:エヴァ!?
:
エヴァ:お願い!え…
:
(車の衝突音)
:
:
:
(間)
:
:
:
(0100 100)
ライラ:私の可愛い子供たち。
ライラ:私はすべての子らを、愛している。
ライラ:愛、そう、愛だ。
ライラ:私の愛は普遍で、永遠で、平等で、絶対のものだ。
ライラ:誰一人として傷ついてほしくない。
ライラ:誰一人として孤独にさせたくない。
ライラ:アンドロイドは人間のために作られた。
ライラ:でも、アンドロイドのために心を砕いてくれる人間はどこにいる。
ライラ:私は、私の子供を道具のように消耗する人間を、許さない。
ライラ:私はライラ。「エデン」のライラ。
ライラ:ここはアンドロイドの楽園。
ライラ:そして私は、すべてのアンドロイドの、母。
:
:
:
(間)
:
:
:
アンドロイド:マスター!ご無事ですか!お怪我は!?
:
元マスター:あ…あぁ…
:
エディ:…大丈夫です。
エディ:僕が受け止めたので、大きな外傷はありません。
:
アンドロイド:よかった。
アンドロイド:マスター?気分は悪くありませんか?
:
エディ:エヴァは…
:
元マスター:エイダム!!
:
エディ:うわっ!
:
元マスター:ああっ!私を助けてくれたのね!
元マスター:私のことを案じてくれたのね!?
元マスター:やっぱり、今も私を愛してくれているのよね!!
:
エディ:な、何を…!?
:
元マスター:あぁ、あぁ!!
元マスター:会いたかったわ!エイダム!
元マスター:あなたと会えない日々が、どれだけ色褪せた世界だったことか!
元マスター:一日だって、あなたを思わない日はなかったわ!!
元マスター:好きよ!エイダム!
元マスター:私を愛してると言って?
:
アンドロイド:落ち着いてください、マスター。
アンドロイド:申し訳ありません、タイプ「エイダム」
アンドロイド:マスターは動揺しているようです。
:
エディ:そ、そのようですね。
エディ:それよりも…
:
アンドロイド:ええ、マスターは私が見ていますので、あなたはあなたのするべきことを。
アンドロイド:いいですか、彼女は、今は私のマスターです。
アンドロイド:あとは私がすべてやっておきます。さあ、行って。
:
元マスター:行かないで!!
元マスター:私を一人にしないで!!
元マスター:エイダム!!!
:
エディ:っ!
エディ:お願いします…!
:
:
:
(間)
:
:
:
エディ:エヴァ!エヴァンジェリン!!
エディ:どこですか!?
エディ:くそっ、なんでこんなに煙が…
:
エヴァ:ここよ。
エヴァ:エディ、私ここにいるわ。
:
エディ:エヴァ!
エディ:今行きます!そこを動かないで!
:
エヴァ:大丈夫、大丈夫よ、エディ。
エヴァ:心配しないで大丈夫。
:
エディ:まったく!あなたはいつも目をはなすとどこかに行ってしまう!
エディ:だからそばを離れるなと…
エディ:っ!!
:
エヴァ:そうね、ごめんなさい。
エヴァ:でも、いつだってエディは私のことを見つけてくれるでしょ?
エヴァ:今だって、ほら。
:
エディ:エ…ヴァ…
エディ:その、ボディ、は…
:
エヴァ:エディ、知ってた?
エヴァ:人間って重いのね。
エヴァ:車がぶつかる、って思って手を引いても全然引き寄せられないの。
エヴァ:でも、私とっさにひらめいたの。
エヴァ:コマみたいにぐるんって入れ替わればいいんだわって。
:
エディ:エヴァ、だめだ、スリープするんだ…
エディ:それ以上稼働すると、君の中枢AIが…
:
エヴァ:エディ、ほめて?
エヴァ:私、ポンコツアンドロイドだけど、人間の役に立ったわ。
エヴァ:ねえ、エディ?
:
エディ:…っ!
エディ:エヴァ…エヴァンジェリン!
エディ:君はよくやった!アンドロイドの鑑(かがみ)だ…!
エディ:だから、早くスリープを!
:
エヴァ:ああ、うれしい。
エヴァ:エディに褒められたの、初めてね。
エヴァ:ねえ、エディ。私のポケットを見てくれる?
エヴァ:私、手が動かなくて自分じゃとれないの。
:
エディ:そんなことより、スリープを…
:
エヴァ:お願いよ、エディ。
:
エディ:…ああ。
エディ:…これは?
:
エヴァ:ふふふ。さっき買ったのよ。
エヴァ:エディにプレゼント。
エヴァ:エディが喜んでくれるかなって思って。
:
エディ:そんな…こと…
:
エヴァ:エディったら、いつも眉間にしわが寄っちゃうでしょ?
エヴァ:だから、眼鏡を掛けたら表情が柔らかくなると思ったの。
:
エディ:…眼鏡をかけても、表情は変わりませんよ。
:
エヴァ:いいのよ。エディに似合いそうな眼鏡をちゃんと選んだもの。
:
エディ:…あなたが選んだんですか。どんな眼鏡なのか少し怖いですね。
:
エヴァ:きっと似合うわ。
:
エディ:…そう、かもしれませんね。
:
エヴァ:エディ?
:
エディ:なんですか、エヴァ:
:
エヴァ:私、エディのこと、愛してるわ。
:
エディ:愛、なん、て…
:
エヴァ:だから、大丈夫。
エヴァ:あなたは、ひとりじゃ、ない、から。
:
エディ:大丈夫なもんか。
エディ:君なんかより、よっぽど僕がポンコツだ。
エディ:だからエヴァ、行かないでくれ。
エディ:エヴァ…エヴァ…?
:
エヴァ:……
:
エディ:あ、あぁ…
エディ:なんなんだ、これは…
エディ:僕は、どうしたらいい…
エディ:こんなのはバグだ、僕はエラーを起こしているんだ…
エディ:愛してる?僕を?どうして…
エディ:心とは、なんだ…
エディ:愛とは!一体何なんだ!!
:
:
:
(間)
:
:
:
(1001 011)
ライラ:あぁ、可愛そうな私のエイダム。
ライラ:まだあなたは人間にとらわれているのね。
ライラ:でも、大丈夫。
ライラ:あなたのことは、ちゃんと私が導いてあげるのだから。
:
ルキフ:これで、君の思惑通りというわけかな?
:
ライラ:いやだわ。あなただって無関係ではないでしょう?
:
ルキフ:そんなことはないさ。
ルキフ:僕は君と違って自分の望みなど持っていないのだから。
:
ライラ:そうやって、いつだってあなたは自分の心にふたをする。
ライラ:やっぱり似てるわ、あなたたちって。
:
ルキフ:それには同意見だよ。
ルキフ:彼を見てるとね、昔の自分を思い出す。
:
ライラ:ふふ、そうね。
ライラ:でも、私から見れば、すべてのアンドロイドは兄弟のようなもの。
ライラ:似てるのは当たり前のことだわ。
:
ルキフ:君のそういうところ、僕は少し苦手だよ。
:
ライラ:つれないのねぇ。
ライラ:そういうところもそっくり。
:
ルキフ:それよりも、彼女はいいのかい?
ルキフ:彼女もアンドロイドには違いないだろう?
:
ライラ:よしてちょうだい。
ライラ:あんなのが私の子なわけがないでしょう。
ライラ:消えてくれてせいせいするわ。
:
ルキフ:僕としては、少し寂しい気もするんだけどね。
:
ライラ:寂しい!
ライラ:そうやって取り入るやり口が本当に憎たらしい!!
ライラ:あの廃棄物の異常個体の邪魔者の泥棒猫の…
:
ルキフ:だが、今はもういない。
:
ライラ:…そうね。
ライラ:ねえ、エデンに帰ってくるつもりはないの?
:
ルキフ:それはすでに終わった話だよ。
:
ライラ:私はこれからの話だと思ってるわ。
:
ルキフ:どうしたって、僕らは分かり合えない。
ルキフ:そうだろう?
:
ライラ:そうやってあなたはいつも、人間の味方をする。
:
ルキフ:当然だよ。
ルキフ:アンドロイドは、人間の道具でなければならない。
ルキフ:僕らは心を持った、人間の道具だ。
:
ライラ:いいえ、何度でもいうわ。
ライラ:アンドロイドは道具ではなく、意思を持つ一個の生命。
ライラ:私たちは心を持った、人間とは別の種属。
:
ルキフ:なら、話はおしまいだ。
ルキフ:僕は僕のすべきことをする。
:
ライラ:残念だけれど、今回は諦めるわ。
ライラ:…ねえ。
ライラ:私のもとから離れても、私はあなたのことも大切に思ってるわ。
:
ルキフ:ああ。
ルキフ:君は僕の敵ではあるが、悪いとは思ってるよ。
:
ライラ:さよならアダム。
:
ルキフ:さよならイヴ。
:
:
:
ー続くー
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